魔刻 第一章

モドル | アトガキ | モクジ

  <12>  

 水輝は町が一望できる場所に立っていた。
「しばらくは、あんな温かいご飯にはありつけないだろうなぁ・・・」
 そう言って笑う。

 とはいえ、食べなくても生きていけるのだけれども。

“水輝”
「ん?」
“彼らはついに本腰を入れ始めたのかもしれませんね”
 今までにあったことの無い敵。
「そうかもね」
“今まで以上に気をつけなくてはいけませんね”
「あんなのがまだごまんといるのか。まったく」
“聞いてますか?水輝”
「聞いてるから呆れてるんじゃないか」

 そしてその背後には、あいつもいる。

“理佐さんに何も言わなくて良かったんですか?”

「ん??」
 水輝は左手を見た。

 あの後、理佐にまた手料理を振舞ってもらった。そして自分たちの話をしたりして盛り上がった。
 理佐にはしばらくゆっくりするように言われたけれども、ゆっくりしてたらそれはそれで彼女にも迷惑をかけてしまうし、新たな追っ手が来てもおかしくない。
 これ以上迷惑はかけられない。

 いざこざに巻き込まれるのは自分1人で充分。

「これで良いんだよ。今までだって1人でやってこれたんだし」


「良くない!」


 後ろから聞きなれた声。
「・・・」
 恐る恐る後ろを振り返ると、見慣れた少女。

「何で腰に手を当てて仁王立ちなんですか」
「当たり前でしょー!」

 バタバタと両手を動かして怒る。
「なーんにも言わないで出て行くし!」
「そんなに怒らない・・・良心だよ良心」
 むーっとした顔でずんずんと水輝の前に歩いてくる。

 うわーやっぱり怒ってた・・・!

「罰として私の言う事聞いてくれる?!」
「・・・はい、なんでしょう?」
 にんまりと理佐は笑う。

 嫌な予感。

「私も一緒に行っていい?」

やっぱりだー・・・!

 ふうっとため息をつく水輝。
「・・・予想はしていたんだよ、お嬢さん」
「なら、話早くない?」
「ダメでしょーが!!」
 えーと言ってふて腐れる理佐。

「神社はどうするんだよ?」
「それは大丈夫!親戚にお願いしたから」
「いつ?」
「さっき」
「早っ!家はどうすんだよ!」
「家?」

 すると理佐は手に1つの鍵を取り出した。
「これ、家の鍵ね」
「?」

 理佐は反対の方向をむくと、その鍵を持った手を大きく振り上げ、そして大きく振り下ろした。
「?!理佐?!!!」

 ・・・何かが飛んでいくのが見えた。

 水輝を振り返ってニッコリ笑った。
「はい、これで私は家に入れなくなりました」
 両手を挙げて笑顔で首を傾けた。

「はあ〜〜〜???!!!」

 理佐の思いもかけない行動に唖然とした。
「ね、家に入れないから帰る所もないし、良いでしょ?」
 一瞬、その勢いに飲まれてうなずきそうになるが、ブンブンと首を振った。

「でもダメなもんはダメ!」

 なんなら力づくでこじ開けて入れるまでだ。

「何で?!」
 それでも折れない理佐が水輝に尋ねる。
「わかっていると思うけど俺はお尋ね者だし、狙われてるし、いつ危険が迫ってくるかわからないし」
「大丈夫!」
 目を丸くする水輝の前に、理佐の人差し指が差し出される。

「1人で戦うよりは、2人の方が半分ずつで楽じゃない?」

 ね?と言ってダメ押しの笑顔。

 ・・・狙われることには変わりないのにな・・・。

「それに」
「それに?」

「私もこの恩恵はいらない。できることなら、人間でいたい」
 
いつの間にか理佐の顔から笑顔が消えていた。
「もう、逃げたくない」

 逃げてなんかなかったくせに。
 ちゃんと戦っていたじゃないか、両親の残したものを守るために。
 自分の事だって。

 少なくとも水輝はそう感じた。
 彼女はこう言っているが、自分から見たらそんなことは全く持ってない。

「こそこそ隠れて、自分に起きた出来事を知らないふりして生きていくのは やっぱりイヤなの。だから水輝、一緒に行っていいかな?」

 ・・・これって根負け?

“私は反対したいんですが・・・”
 うん、オレもそうなんだけど。
“どうしましょう?”
 え、パラルまで困ってるのか?・・・はははおっかしいや。

 くすくすと水輝は笑い出す。
「?」
 理佐は首をかしげた。

「理佐」
「はい?」
 敬語って。

「じゃあご飯で手を打とう」

「・・・ご飯?」
「そ、ご飯」
 水輝は来た道を戻り始めた。
「考えすぎたらお腹空いたー!」

本当は空いてないんだけれども。

「えー?どうなの?私、どうすればいいのー?」
 困惑した理佐の声が後ろから聞こえる。
 水輝は後ろを振り返ってのんきに言う。
「ご飯で手を打とうって言っただろ」
 彼女はしばらく考え込んだ末、ぱっと表情が明るくなった。

「それって!」
「そうそれ!」
「じゃあ張り切って作らさせていただきますか!」

 チャラ・・・

 そう言って笑った理佐の手には1つの鍵が握られていた。



魔刻 第一章 完


モドル | アトガキ | モクジ
Copyright (c) 2006 seep All rights reserved.
 

-Powered by 小説HTMLの小人さん-