魔刻 第一章

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 グアアアアアアアアア!!!!

 最後には、元の姿であった名残のある部分のみ残っていた。
 そしてそれはバタバタと苦しみながら喘いでいる。

「ハア・・・ハア・・・」
 その側で肩で息をしていた水輝がしゃがみこんでいた。
そしてすうっと息を吸い込む。


「理佐ぁあ!!もういいぞぉおおおお!!!」


 パン!!

 それに応えるようにその球体は弾けて消える。
 はっとして水輝は理佐の姿を探した。
「理佐??!!」

「・・・水輝?」

後ろから声がした。
 すぐさま振り返り、彼女の姿を確認した。すぐに笑顔になる。
 理佐は地面にへたりこんで、水輝の姿を見て弱々しく微笑み手を振っていた。

 あまり大丈夫じゃ無さそうだな。

 そう思うも、自分も始めはそうだったことをふと思い出す。
「理佐!腕輪をこっちに投げて!」

 え?という顔をするも、すぐに左手にある腕輪を外し、水輝に向かって放り投げた。
「って」

 ゴン!

「ご、ごめんなさーい!!」
 見事に水輝の頭を直撃した。
「・・・あの、こんなお決まりのギャグをする暇なんて無いんですけれどもね・・・」
 水輝は頭をさすりながら腕輪を拾う。
「とりあえず、サンキュ」
 理佐に向かって手を上げる。

「さて、パラル頼むぞ」
“任せてください”
 腕輪にほんのり光が宿る。
封魔輝輪ふうまきりん!」
 そう叫ぶと、苦しみ暴れているクシナダに向かって投げつけた。

ヴン

 またたく間に腕輪は大きくなり光の輪へと姿を変え、クシナダの体をその輪の中に捕らえた。

 グアアアアアアアア!!

 悲鳴のような叫び声をあげる。
 バチバチと音を立てて光の輪は彼女の体をしっかり捕えて離さない。

 水輝は理佐の側に歩み寄った。
「理佐」
 呼ばれて彼女は顔を上げる。まだしゃがみこんだままだ。
 水輝は理佐の体を支え、立たせる。
「動ける?」
「立ったら何とか・・・」
 水輝は理佐の前に手を差し出す。
 ふとその手の先を見ると、彼の持っている刀がある。
「これを持って」
 言われるがままに水輝の刀を手に取る。思ったよりずっしりと重かった。
 刀を持ち、それをまじまじと見つめている理佐を見て水輝は言った。

「2人で、あいつにとどめを刺そう」
「え・・・」

 訳がわからない、という顔で水輝を見つめる理佐。
 その理佐を見てニカッと笑いかける水輝。

「思いっきりやってやれ!思いのたけを全部その1撃にこめて」

 そっと刀にもう一方の手を添えた。
 1歩、また1歩と歩を進める。
 足元を見ていた理佐は顔を上げて前を見た。
 光の輪で体を縛られているクシナダという怪物がそこにはいる。

「・・・お父さん、お母さんの仇なのに」

 理佐の目に映るその仇の姿はなんとも醜くて、それでいて悲しくて、そして哀れで。
 自分が手を下す。
 仇を討つ。
 何だか変な気分だった。

「・・・情けないな」
 理佐は苦笑した。
 やっきになってここを守りたいと思っていた自分が、いざ守れるという時になって怖気づくなんて。
 お人好しにも程がある。

「理佐?」
 心配そうに水輝が顔を覗き込む。
「ううん、大丈夫」
 苦笑をただの笑顔に変える。
 同情をするために戦ってきたんじゃない、今までは両親のために戦ってきたじゃないか。

 これは1つの終わり。
 これからまだ長い道のりが続いているのだから。

 その様子を見て水輝は微笑んだ。
「じゃあ、オレから行く」
 1本の刀を構え、精神を集中する。

 シュウウウウウウゥゥゥゥゥ・・・・

刀身に黄色い光を宿らせ、その光は刀身を渦巻くように包み込む。
 気づくと理佐の持つ刀にも同じように光が渦巻いて宿っている。

空心無魔くうしむまの太刀!」

 ザッ!!!

 風のように水輝の体がクシナダの体を通り抜けていく。
 クシナダの体に、刀でついた大きな空間の裂け目が現れた。

 ガアアアアアアアアアアァァァァ!!!

 理佐は刀をしっかり握る。刀を持つなんてなかったもので、少し扱いにくい。
「理佐!」
 後ろを振り返って水輝が叫んだ。
 理佐もうなずく。そして刀を持って走り出した。

「たあああああああ!!!」

 ザン!!!!

 手ごたえがあった。

 理佐は通り過ぎた後を、ゆっくりと振り返って眺める。

 クシナダの体には水輝がつけた裂け目と、理佐のつけた裂け目がうまく交差して刻みこまれていた。
 刻み込まれた裂け目の中心には、黒く渦巻く球体が1つ見えた。
 そして、その裂け目から溢れんばかりの黄色い光が放たれる。
 あまりの眩しさに理佐は目を細め、手で顔に当たる光をさえぎった。

 ギャアアアアアアアア!!!!!

 これは大蛇おろちの声だろうか、それともクシナダ姫の悲鳴だったのだろうか。
 女性の声と野太い声が混ざったものだった。

 しばらくすると光は収まり、理佐は顔をさえぎっていた手を下ろす。

 そこには鈍く光る金色の腕輪が転がっているだけだった。

 と、その腕輪を取り、自分の腕にはめる人物が視界に入ってくる。
「・・・はい、お疲れさん」
 呆然とその様子を見つめる彼女を、彼は優しく笑って見つめた。
「理佐も、お疲れ」
 そう言って彼女の頭に手を置いて、ポンポンと弾ませた。

 するとふっと彼女の意識が暗転した。

 掌からの温もりを消える意識の隅にしっかりと残して。



「ありがとう」
 気を失った彼女を家へ運んで寝かせ、しばらくして意識を取り戻した彼女の第一声。
 水輝はそれを聞いて苦笑する。
「とりあえず休みなさいな。初めての術を使った後って消耗激しいんだから」
「もう大丈夫。ぐっと寝たから」
 理佐は体を起こす。
「水輝」
「ん」
 見ると理佐は満面の笑みで一言。
「本当にありがとう」


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