魔刻 第一章
<10>
2本の刀が扇のようにひらひらと宙を舞う。
その刀にはじかれるように蛇の体がのけぞったり、地面に勢いよく叩きつけられたり、女の爪がはじけ飛んだりしていた。
その中央には刀を持つ踊り子。
しなやかに、力強く。
“理佐さん”
頭の中に優しい声が響く。
“あなたの持つその鏡には、まだたくさんの力があります。それはきっとこれからもあなたを助けてくれるに違いありません”
理佐は鏡を前に掲げ、目を閉じる。
“鏡、という特性を利用しましょう。それがあなたの武器。これから私があなたに手ほどきをします。でもこれはまだ一部の力。あとは理佐さん次第です”
・・・私、次第ね。
口元を緩め、少し笑う。
“集中してください。たくさんの鏡が乱立しているイメージを”
たくさんの鏡・・・。
自分の手に持つ鏡に様々な思いと共に、自分のイメージをのせる。
ゴオッ!!
水輝の目の前にあった蛇の口から炎が溢れ出した。
「?!」
すばやく横に飛びのき、一旦その場から離れる。
髪が焦げる匂いがツンとした。
「・・・ふー・・・」
少し離れた場所に着地して反転して身構えた。
安全を確認して、片手で頭を触ってみる。
「ゲッ!少しだけチリチリになってる・・・!」
まあ、全部焼けるよりはかなりマシ・・・。
危ない危ない。
肩で息を大きく吐いた。
「まだかな・・・?」
横目でちらっと彼女の方を見た。
「・・・ははっ、なんか学生時代を思い出すねぇ!」
オレは練習嫌いだったから、ひたすら剣を打ち続けるなんてめっぽう苦手だったな・・・。
本番の方が楽しい。
何よりも集中してできるし、時間も限られてるし、緊張感のある空気が好きだ。
や、でも髪が焼けるのはカンベンだな・・・。
「頑張れ」
水輝は再び走り出した。
ブウウウウウゥゥゥゥン・・・!
「?!」
鏡の方から聞いたことのない音がして目を開けた。
「・・・鏡が乱立・・・」
鏡が並び、向かい合う。
そこに映るは無限の鏡の回廊。
その中に自分が迷い込むと、何が映る?
それはどんな助力になる?
閃くものがある。
「パラル、そういうことね!」
理佐の閃きに反応するように鏡から白い光が弾けて飛んでいく。
後ろの方から何かが接近してくるのを感じて振り返る。
水輝はニヤッと笑い、その場を離れた。
パアアアアァァァァン!
その光は花火のように無数に拡散し、クシナダの体をすっぽり包み込んだ。
そしてその光がある程度収まると鈍く光る球体となる。
中ではクシナダが立ち尽くしていた。
ゆっくりと周りを見、この球体から抜け出そうとして腕を振るったり、蛇たちが体当たりをする。
しかし彼女を包み込む球体はビクともしなかった。
「出れないだろ?まあ、当たり前だけれどもね」
クシナダの目の前にどこからともなく水輝が現れた。
ガアアアアアア!!!
クシナダの端正な顔にある艶やかな唇からおぞましい声が発せられる。
その様子を見、水輝はニヤリと笑う。
「さあ、続きを始めようか」
水輝はクシナダに向かって走り出し、地を蹴ってクシナダの真正面に飛び上がった。
それを見たクシナダは蛇たちを集め、炎を吐かせる。
炎は真っ直ぐ水輝に向かうも、水輝は避けるしぐさもない。
ゴオオオオオ!!!
炎が水輝の体を包み込む。
「こっちだ」
右側の方から声がした。
「こっちだって!」
今度は左。
「こっちだったりして」
今度は背後。
「「「「こっちだ!!」」」」
いくつもの声が重なった、かと思うといたるところに無数の水輝の姿があった。
クシナダは若干混乱しつつも、8つの首を持つ蛇たちと自らの腕を駆使してすべての水輝の姿に向かって攻撃を開始する。
ゴオオオオオオ!!!
炎を浴びた何人かの水輝の姿は一瞬にして消えてしまった。
「残念!」
何人かの水輝がクシナダの懐に飛び込んできていた。
「じゃ、お望み通り思いっきり暴れてきましょうかね」
何人もの水輝が持つ刀が一斉に煌いた。
・・・大丈夫かな?水輝・・・。
手の中にある鏡からは絶え間なく白い光が溢れて出ている。
“理佐さん、大丈夫ですか?”
パラルの声に苦笑いする。
私のほうが大丈夫じゃないかも。
「・・・まさか身動き取れないなんてね」
“誰でも初めてはそうですよ。しかし、随分規模が大きい術になりましたね”
「まあ、向こうが大きいからね!」
語尾を上げるついでに、自分に気合を入れてみる。
集中集中!!
「そうしないと途切れちゃいそう・・・」
光は相変わらず一定量で溢れていた。
あとは水輝に任せるしかないわね・・・。
何人もの水輝が、怪物の懐で華麗に舞う。
舞えば舞うほど赤い花びらが宙を染める。
ガアアアアアアアアア!!!!
先ほどとは違う、苦しさの混じった声。
同時に彼らに反撃をするものの、姿が掻き消えたり、空を切るばかり。
ただ痛みと苦しさにかまけて、めちゃめちゃに暴れているだけのようである。
そのような姿を遠くから見つめる1人の水輝。その瞳に映る彼女の醜い姿は哀れというしかなくて。
「元のままだったら、どんなに良いか」
それは相手に対する呆れなのか、自分に対する憂いなのか。
水輝はまた彼女にむかって刀を向けた。
「一気に、いく!」
走り出す。
「だああああああ!!!!」
他の水輝も同じように走り出した。
バババババババババ!!!!
大量の鮮血がその場に流れ出した。
返り血はもちろん、彼らにすべて返されていて。
8つの蛇の頭の足は、1つまた1つと切り落とされていった。
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