魔刻 第一章
<4>
すっかり日が落ち街全体が闇に包まれ、いつもの静けさを取り戻す。
またそれが、恐怖の始まりであることもある。
「ひぃっ!!」
静かな、静かな場所であったはずのかの場所。
鋭い悲鳴が闇を切り裂くように響き渡った。が、それは「外」には聞こえなかった。
「・・・助けなんて、来ないわよ・・・」
神社の前。
その前におびえてしゃがみこんでいる会社員風の男。
男の胸にはうっすらと鮮血が滲んでいた。
さらにその前には赤髪の美女。
「さあ、私達の仲間になるのよ。ならないにしても私たちの役に立ってもらうことだってできる」
「ば、化け物!!」
ゆっくり、ゆっくりと近づいていく。
後ずさりする男よりも早く。
シュッ!!!!
「?!」
美女の前になにかが横切った。
「そこまで!」
一つの影が男の前に立ちふさがる。
美女はその影を睨みつける。
「またお前か」
「邪魔が好きなんで」
「フン・・・何度出てきたって同じこと」
赤い髪が何本かに束ねられ、その先が鋭く尖る。
シュッ!!シュッ!!!
まるで矢のように飛んでいく。
「おじさん、しっかりつかまって!」
影は男を抱え上げ、その場から飛び上がる。
ドガドガッ!
さっきまでいた辺りの石畳に髪の毛が突き刺さる。
影は近くの茂みに男を降ろす。
「引きつけているうちに逃げて!」
「お、おい!」
軽やかにその場を離れ、再び神社の前へ。
「・・・?」
神社の境内はしんと静まり返っている。
さっきまでいたはずの美女はどこにも見当たらない。
影は辺りを見回した。
「逃げた・・・?」
「と、思う?」
頭上から声が響く。
「?!!」
上を見上げる。と、赤い矢が落ちてくる直前だった。
ガガガガッ!!!
間一髪それらの攻撃を避ける。
「たあ!」
ビュッ!
影は何かを投げつける。
それは真っ直ぐ美女の元へ飛んでいく。
しかし美女はそれを避けようと位置を変えた。
ドゴッ
鈍い音がした。
「ぐあっ!」
が、それは直前に方向を変え美女の体にねじ込まれる。
シュン!!
弧を描いてそれは影の元へ戻っていく。
「はっ!」
タンッ!
影が美女の前へ飛び上がる。
「?!」
「やあ!」
もう一度それを投げつける。それは円盤のような形をしていた。
ドガッ!!
「うっ!!」
「ふん!!」
美女の体に当たり、その円盤状のものから伸びていた紐のようなものの先を影が掴んでいた。
影はそれを引っ張り一旦美女から円盤状のものを離した。
「うあああ!」
そして勢いをつけてもう一度それを美女に向かって放つ。
円盤状のものは激しく回転し美女の方へ飛んでいく。
「・・・調子にのるなぁ!!」
美女は体を押さえ、下げていた顔を上げる。
ザワ・・・。
美女の赤い髪が宙を走る。
円盤状のものはその赤い海の上を高速に回転し次々と断ち切っていく。
「?!何ィ?!!」
「・・・」
ガァンッ!!!
「ああああ!!!」
美女の体が遠くに吹き飛んだ。
影は円盤状のものを手元に収め、円盤を美女に向けた。
「・・・惨劇はもう終わりだ・・・!」
コツコツ・・・と倒れている美女の下へ近づいていく
「終わり、終わらせる・・・!」
円盤が怪しく光った。
「はあ!」
そこから漆黒の光が美女に向けて放たれた。
ゴオオオオォォォ・・・!!
「消えて無くなれぇえ!!」
放たれた漆黒の濁流は美女の体をすっぽり包み込んだ。
オオオオオォォォォ・・・。
徐々に光は消えていく。
そこには何もなくなっていた。
影はふうっと息を吐いた。
「・・・終わり」
きびすを返しその場を立ち去ろうとした時、今までに感じた事の無い冷たい風を背筋に感じた。
確認してみろ。それは何だ?
でも振り向いちゃいけない。
誰かがそう言うかのような冷たい意思。
「まさか・・・」
「その、まさかじゃない?」
艶のある声。
何度も聞いたことのある忌まわしい声。
その声の持ち主は消したはずなのに。
後ろを振り向こうとした。
と、一瞬にして視界が真っ暗になる。
気がつくと体を遠くに飛ばされていた。
遅れて全身に痛みが走った。
地に手をつけて体を起こす。
「私としたことが随分油断しちゃったわね。まさかあなたがここまでやるなんてね。・・・今まで何でコソコソやっていてのかしら?」
いつの間にか頭上にいるあの女。
「?!」
ガッ
逃げようとしたが頭を掴まれ、さらに体も赤い髪に囚われてしまった。
「・・・知ってるのよ、あなたのこと。」
先ほどまであれだけの打撃を加えられていたのに、その美しい肌には傷1つ付いてない。
「あなた、ここの神主の娘なんでしょ?」
恐ろしくも美しい笑みをたたえている。
「さしずめ両親の敵討ちってところかしら・・・その割には、ずいぶんと出番の遅かったこと。しかもその力、私たちと同じ“闇の力の恩恵”を授かった祝福の力」
逃れようと必死でもがくが全く身動きが取れない。手にはあの円盤状の武器があるが、それさえ赤い髪にしっかりと囚われている。
「その時にこちらに付けば良かったのに・・・残念だったわね。反逆者は始末される運命にあるの。」
空いている手をそっと捕まえている人物に添える。
ザン!ザン!!
いつかのように赤い髪が切り刻まれ、横からもう1つの黒い影が捕らえられていた人物をさらっていく。
「今度は誰?!」
「昨日ぶり?どうもどうも」
少し離れていたところにこちらに背を向け、捕らえられていた人物を抱きかかえていた。
「・・・お前は!」
「そ、昨日の人」
よいしょ、と抱えていた人物を地面に下ろす。
「おい、大丈夫か?」
その人物には見覚えがあった。
「この間はありがとな」
そう言ってその人物に微笑みかける。
「・・・こちらこそ、ありがとう。家に帰ったらまたご飯食べさせてあげる」
ばつの悪そうに苦笑いした、理佐だった。
Copyright (c) 2006 seep All rights reserved.
-Powered by 小説HTMLの小人さん-