魔刻 第二章

ススム | モクジ

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 痛い。
 手をそっと胸に当てた。
 違った感覚、間違った痛み。

 痛い。
 もう片方の手を首に巻きつけた。
 異なった感覚、異常な痛み。

 何でこんなことが。

 自分の身に起きた事を頭の中に思い描く。
 ありえない。
 ありえない出来事。

 何であんなところであんなことが起こってたんだ?

 自分の運命に多大なるため息をつく。
 ため息で済むものではないが、今は安全だから大丈夫。
 見た目は全く変わりない。
 隠していけるものだ。

 ただ時折現れるこの痛みだけが、自分を確かにあった過去の出来事を思い出させ、現実の世界へと引き戻す。

 大丈夫。
 自分にしかわからない。
 隠し通せる、はずだ。
 大切な人には、知られたくない。

 面倒なことにはならない。

 額から降りてきた水滴をぬぐう。
 大丈夫。大丈夫だ。

 ふと窓から吹き抜けるひんやりとした風。
 もう、夏も終わる。

 忌まわしい出来事のあった夏も。


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