魔刻 第二章
<1>
痛い。
手をそっと胸に当てた。
違った感覚、間違った痛み。
痛い。
もう片方の手を首に巻きつけた。
異なった感覚、異常な痛み。
何でこんなことが。
自分の身に起きた事を頭の中に思い描く。
ありえない。
ありえない出来事。
何であんなところであんなことが起こってたんだ?
自分の運命に多大なるため息をつく。
ため息で済むものではないが、今は安全だから大丈夫。
見た目は全く変わりない。
隠していけるものだ。
ただ時折現れるこの痛みだけが、自分を確かにあった過去の出来事を思い出させ、現実の世界へと引き戻す。
大丈夫。
自分にしかわからない。
隠し通せる、はずだ。
大切な人には、知られたくない。
面倒なことにはならない。
額から降りてきた水滴をぬぐう。
大丈夫。大丈夫だ。
ふと窓から吹き抜けるひんやりとした風。
もう、夏も終わる。
忌まわしい出来事のあった夏も。
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